阿部初美のブログ

演劇の演出家です。

2010年08月

陣痛

予定日より一週間遅れた日曜の朝6時。
まだ暗い。
ぼんやり目覚めると、下腹と腰のあたりに痛みがある。じっと痛みを感じているとやわらぎ、なくなっていった。そのままじっと待つ。しばらくするとまた同じ痛みがやってくる。もしやと思い、枕元のストップウォッチに手をのばし、スタートボタンを押す。
約10分。次の痛みまで。10分間隔とは聞いていたけど、これほど正確なものとは。
今まで、たくさん歩いた夜にきたプレ陣痛のようなものは、重い生理痛みたいで間隔もなにもなかったけど、この朝の痛みはあきらかに違っていた。
ストップウォッチで計ること一時間弱。
痛みは次第にキリキリと鋭さを増している。

降りる覚悟を決めたんだね。
前々日の夜、降りる覚悟ができないのかと、いつまでもおなかに居続ける子に問いかけた。
外に出る日は、子どもが決める。子どもの脳は臍の緒を通じて、母体の脳にそれを知らせ、知らせを受けた母体の脳は、陣痛をひき起こす。

このままこの陣痛が散らなければ、入院になるかもしれない。まずは病院に電話を入れて指示をもらう。

午前7時過ぎ。ベッドから立ち上がった瞬間になにかドロッとしたものが流れ出た。
それはピンク色のドロッとした液体だった。「お印」だ。
まさに聞いていた通り、ピンク色でドロッとしている。
間違いない。でもすぐに生まれるとはかぎらない。
落ち着いて、まずは着替えて、朝ごはんを食べよう。それから病院に電話する。

午前9時過ぎ。病院に電話。そのまま入院になるかもしれないから、一応入院の準備をして、急がす、ゆっくりくるようにという指示があった。


胎動

今年の3月から、いつもこどもがいるようになった。

予定日より一週間遅れた日曜の明け方4時過ぎ、ふと目が覚めると、胎動があった。動いてる。妊娠中はきついことばかりだったが、胎動を感じるのはとても不思議で、なんとも言えず面白い時間だった。
初めての胎動は去年の秋、10月15日、電車の中でのこと。稽古の帰り。座席にすわっていると、おなかの中から、ペコン。ペコン。と、二回、ノックがあった。
これが胎動だ、すぐにわかった。
それから胎動くんとは長い付き合いになった。
初めておなかが動くのを見た夫は「鰻みたい」と言っていた。
おなかが大きくなると、時々、ひじか膝か、関節の形が浮き出るようになった。おなかの左下の方では夜になるとしょっちゅう、ひゃっくりをやっていた。
「お風呂でよく動かない?」クリーニング屋さんのおばさんが言ってたけど、お風呂ではちっとも動かなかった。
よく動くのはきまって夜寝る前。仰向けになると、よく動いた。特にiPodでオルゴールを聞かせると、とたんに動き出す。
胎動は、わたし以外の他の人が触ると、ほとんどの場合、止まった。
おなかの外で誰が触ってるのか、身をひそめて探っているようだった。

臨月になっても、まだおなかの中からこどもが出てくるなんて、頭ではわかっても全然実感がなかったけど、出てくるなら胎動もこのへんで見納めになるなと思って、陣痛の始まる数日前、デジカメの映像モードで大きく動くおなかを撮影しておいた。
あの頃は、うつぶせで再び眠れる日が来るなんてことも、夢のようだった。

でその日曜の明け方を最後にもう胎動を感じることはなかった。
動いてる。一瞬そう思って、また眠りに落ちた。
それから二時間後、再び目を覚ますと、おなかに重い生理痛のような痛みがやってきていた。

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