今年もまた夏が暑い。
お盆は旦那の実家のある福岡に帰省していた。西の方では雨の夏になっている。
最高気温が30度をこえると今日は暑い〜と驚いていた、われわれが子どもの頃の夏がちょうどよい夏だった。
あんまり暑いと動けなくなって、その日一日をなんとか乗り越えるのが精一杯になる。
あれもやりたいこれも、と思っていたことをあきらめる。
最近ふと思う。
「年をとる」とか「子どもを育てる」ということは「あきらめる」ことなんだなあ。
最近だいぶあきらめるのが上手になってきた。
先に年をとった人々を思うと、みんなだんだん体が動かなくなっていって、活動量が減っていく。ということは、あれもこれもあきらめる、ということ。
子どもを育てるということも、自分のやりたいことをあきらめることだ。
子どもが生まれてからあきらめていること。テレビ、新聞、ネット、本、映画、夜の外出、買い物、舞台作品の製作、急ぎでない手紙やメールへの返信などなど。
それに子どもはすぐに病気にかかるので、そんな時も、その日するはずだった仕事や雑用をあきらめなければならない。あきらめなければならない状況は非情に突然やってくる。それでいちいち落胆したりカッカきたりしていると身がもたない、ということをここ数年、とくに去年、嫌というほど学んだ。だったらもうはじめからそういうものだからあきらめると決め、今年の仕事、4都市連携プロジェクトをスタートさせた。
そして5月下旬からほぼ毎週のように仙台、水戸、北九州をまわる日々を送っている。

でも「あきらめる」ことは、そう悪いことばかりでもない。
(もちろん「あきらめる」ことを許してくれた各地のスタッフの方々のおかげであることは間違いないが。)
そもそもわたし一人ではこの「4都市連携プロジェクト」を成立させることはとうていできない。なので各地、地元アーティストに手伝ってもらう体制を作っていただいた。それがとても今、面白い。
あきらめず自分一人でがんばろうとしていたら、こんな面白い仕事のしかたに出会うこともなかったと思う。

来年年明けから始まる世田谷をのぞく仙台・水戸・北九州の3都市では、ある共通の壁面展示作品を作ることになった。この作品のいいタイトルが思いつかないのだが、「多声のオブジェ」とか、「声のテキスタイル」とでもいうようなイメージのもので、それぞれの都市に暮す様々な年齢、立場の人々の、結婚や産み育てに関する思いや記憶をテキストの形で収集し、その複数の声(だいたい各都市100を目標にしている)を構成して壁面に展示するというものだ。
その土地で暮す人々の気質はその土地の気候風土によっているので、それがわかるような写真も展示したい、というアイデアが参加者からでた。各地、この壁面作品の構想を考えるうちに、風景だけでなく人物や、赤ちゃんのエコー写真、子どもが描いた絵、「将来の夢」などを書いた卒業文集の寄せ書き、地域の標語、学校の目当て、思い出のつまったモノ、節句の人形、などなど、テキストの他にも様々なものを一緒に貼付けて壁面を構成しようという話にふくらんでいった。
現在、3都市では、地域の人々に結婚産み育てに関する思いや記憶をアンケート形式で書いてもらっている段階で、まもなくその回収が始まる。
回収したテキストを、今度は参加者や現地スタッフが抜粋、構成していく。
仙台で一部回収されたテキストを見せてもらったが、年配の方の手書きのテキストと言葉の重みは本当に涙がでるくらいのものだった。
このテキストを収集するためのアンケート用紙にはちょっとした仕掛けがしてあって、これまで各地域でワークショップを重ねてみえてきたその土地ならではの産み育て事情を引き出す問いと、それから各地域共通の問いが並んでいる。

たとえば、何代も続く古い家が残り、「家父長制」の影響が色濃く残る仙台では、「結婚を意識した時、自分や相手が長男長女であるかを意識するかどうか」とか、「現在、古い家が途絶えつつあることをどう思うか」など。
仙台のアンケートはネットでも募集中(仙台市内や近隣在住の方はぜひご参加くださいませ)
「となりの子育て」〜結婚・産み・育てをみんなで考えるワークショップ〜からの質問
https://docs.google.com/forms/d/1JmxdLWWXNt7uVZDMlmZm_Pi7R6RzdVz2tMFl3RUydTU/viewform

「家」の意識がまた違った形で表れている水戸では「長男長女は親と同居するという考えをどう思うか」とか、「二世帯のいいところ、困ったところ」や、「節句のエピソード」など。去年の文通プロジェクトでは北九州から「武家っぽい」と称された水戸の、「まわりを変えるよりも自分自身を律し強くなる」という精神論に関する問い。
水戸もネットでも募集中(仙台市内や近隣在住の方はぜひご参加くださいませ)
産み育て。あなたの声を聞かせてください
https://docs.google.com/forms/d/1OUfpQVpeRGfYSvmraYClYodYwIb3XK8Fl8D51OnWCu4/viewform

「子育てユートピア」と言われるほど「子育て」しやすい街、北九州では、それでもだんだん地域力が失われていっている、という。表面的なことにとらわれず、常に物事の本質を見つめようとする人々の多い北九州では「自分の子ども時代の環境と今の子育て環境の違いを実感したことは?」「親はなぜ自分を産んだのか」「かつて家庭の中の労働力だった子どもに今はなにを求めるのか」「かつては結婚して子どもを産み育てるのがあたりまえ、今は個人の自由が尊重される時代、それをどう思うか?またその結果社会はどうなっていくのか」などなど。あとの3つはとてもいい問いということで、3都市共通の問いとなった。

この壁面アート、なんかいいタイトルないかな〜。

他のプログラムはまた各地域、地域色にとんでいる。

たとえば、一芸にひいでた人物の多い仙台では、母でもあり元フリーアナウンサーの女芸人Nさんのコント、ゲイのダンサー&俳優Pさんのダンス作品、70代俳優はるちゃんが若い女性たちに結婚や産み育てについて街頭でインタビューを行う「はるちゃんの突撃インタビュー(女編)」、60代俳優ますいさんが若い男性にインタビューする男バージョン「ますいさんの突撃インタビュー(男編)」などなど。
壁面テキスト構成は一児の母になった地元の劇団三角フラスコの劇作・演出家の生田めぐみさん、美術は「となりの子育て」のチラシデザインも担当してくれている川村さん。テキストを抜粋して作るソングの構成は、生田さんの旦那さんで一児の父でもある地元俳優イワシさん。演奏と歌は、ワークショップ参加者でバンド活動を続けてきたMちゃんとベーシストの旦那さんも出演予定。

一般参加者顔出しNG傾向のある水戸は、地元のコンテンポラリーダンサー平松み紀さんと水戸芸術館ACM劇場の遠島さんが、みんなの声を代弁して表現、ということで、平松さんが「水戸」をテーマにダンス作品を製作(他都市の作品も検討中)、遠島さんは「水戸の産み育て」をテーマに小咄を作る。「わたしヘン?」「オレはそう思うよ!」地元でよくとびだすフレーズ満載。

好奇心旺盛でにぎやかな人々の集まる北九州では、「(子ども産んでも)ええじゃないか」という映像作品を製作予定。日本では庶民は危機的状況をユーモアに転化することで乗り越えようとしてきた、ということで北九州名物カリスマ数学パフォーマーまあちゃんからの発案で、北九州を出発したええじゃないかの行列が渋谷のスクランブル交差点まで練り歩く、というもの。その他、去年の文通プロジェクトから引き続き、産み育てをテーマにした「人形劇」の製作、壁面作品のテキストを抜粋して作る詩のリーディングや、オープンディスカッションなど。
北九州では並行して行う3回コースの参加者をただいま募集中です。
http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/entry/2014/0922umisodate.html

各地、地元アーティストのみなさんと参加者のみなさんが共同で作品製作を進めている。
自分一人でがんばろうとしていたら、こんなたくさんの地元のアーティストやみなさんに関わってもらって、こんな面白い作品の作り方はできなかった。
「あきらめる」のもなかなかよいものだと思う。

各地の作品発表は、仙台がメディアテークで10月25日(土)-26日(日)、水戸は水戸芸術館で11月30日(日)、北九州は子育てふれあいプラザで12月14日(日)、世田谷はキャロットタワー内の一室で3月下旬頃の予定。各地まだまだ越えなければならない山はあるけど、今からとても楽しみです。