阿部初美のブログ

演劇の演出家です。

2009年11月

リージョナル研修@松本 2

ところでわたしにとって、ワークショップは今やかかすことのできない仕事になっている。対象は小学生、中学生、高校生、大学生、一般と出来るだけ年齢層を広めにしている。img20091127.jpg

右:宿から蔵造りの通りを通ってまつもと市民芸術館へ徒歩通勤太陽

それは、演劇の外の世界の「他者」との出会いをもたらし、その出会いは、どんな地域のどんな世代の人が、今、どんなことを感じながら生きているのかを具体的におしえてくれる。
その具体的な人たちを意識しながら、わたしは作品を作る。せまい世界に閉じこもっていると、外界の現実とのズレに無頓着になってしまうことはよくあるが、ワークショップの仕事は、これをふせぐ役割を果たしてくれるので、創作活動にも大きく影響するかかせないものになっているのだ。

また、わたしがワークショップを積極的に行うもう一つの理由は「観客育成」にある。
十分な時間のワークショップを体験した参加者は、確実に表現の深さや豊かさ、多様さに触れ、未知の自己や他者と出会い、自らの鑑賞眼を開いていくのだ。
「現代~」とつく同時代的な表現には、わかりやすい、一方通行に受信するだけのいわゆるTV的な文法では解読不可能な表現も多いが、ワークショップを通じて、たとえばそういった現代的な表現世界やその面白さを体験してもらうこともできる。
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左:草間弥生さんは長野のご出身、で、コカ・コーラもクサマトリックス





以上ふたつが、わたしがアーティストとして積極的にワークショップを行う動機だが、企画者(アーティストと参加者を出会わせる人。今回の研修では、公共劇場の制作者の立場)の側はどんな目的を持っているのだろうか。

これまでワークショップをご依頼いただいた企画者の目的はさまざまだったが、「NPO芸術家と子どもたち」の例は興味深く、それは、「学校という、ある面、風通しの悪いところへ、アーティストという変な人種を連れていって、ふだんとは違うモノの見方を体験してもらうこと」を目的としたものだった。

で、実際学校に行ってみると、なるほどと実感することが多々あった。
なにをするにも「マス」で動くこと、杓子定規な判断や規律、固定観念、などなど。
ただ、そうなってしまいがちなのもわかる気もする。
学校というところは、社会に出る前に、社会性を身につける場所でもある。時間と人手が十分ではない状況で、言うことをきかない大勢の子どもたちにルールを学ばせ守らせるためには、杓子定規にならざるを得ないこともある、というところだ。
しかし、心ある先生ほど、そんな状況に葛藤をいだいているし、子どもたちと真摯に向き合っている。

さて一方で、アーティストという人種は、そんな杓子定規なモノの見方をひっくり返したり、ぶちこわしたりする名人でもある。この「ひっくり返し」や「ぶちこわし」は現代芸術の宿命である。世界を硬直させてはならないことを、人類は近代から学んだのだ。


つづく

リージョナル研修@松本 1

今年7月頭に(財)地域創造主催の「リージョナルシアター事業~演劇における地域交流プログラムづくり~」という企画に、アドバイザーとして参加させていただいた。
もうかなり時間が経ってしまったけど、すっかり忘れてしまわないうちにまとめておきたい。

この企画は、地域の公共劇場と地元の演劇人によるアウトリーチ事業の促進を目的としている。
ようするに、公共劇場制作担当者と地元演劇人が組んで、劇場の外(例えば学校とか)に向けてワークショップなどを行う事業を支援する研修である。
今回は、熊本と長崎の劇場&演劇人(劇作・演出家、俳優、制作)が参加、長野県松本市内の公共劇場での、5日間の合宿型の研修だった。
松本の街も劇場もとてもすてきで、研修もとても充実して、今思い返しても本当に贅沢な5日間だった。

img20091127.jpg左:松本城りっぱ!


具体的には、地域創造スタッフが研修の進行・サポートをし、ブラック ボトム ブラス バンドのみなさんによる音楽のWSや美術の教育普及の草分け的存在である大月ヒロ子さんによる美術のWS、それから音楽の方から津田ホールプロデューサーの楠瀬壽賀子さんや、舞踏の岩下徹さんの制作の志賀礼子さんのゲストトークやディスカッションがあったりする中、長崎・熊本のみなさんのワークショップ事業の内容が詰められ、アドバイザーの(財)地域創造の津村さん、大月ヒロ子さんとわたしの3人が講評をしたりする。

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右:大月さんのWS/松本の街を背景に物語を創作


まず参加して驚いたのは、研修の内容の質の高さだった。
日本の演劇現場ではあまり聞かれないような、とても本質的な話が展開される。
コストの低さから昨今、公共事業としてアウトリーチがさかんに行われるようになったが、そもそもアーティストは教育者ではなく創作者であり、劇場は作品が制作・上演されるところであるという根本的な認識がおろそかにされつつあるという問題点。
ワークショップの目的、手法、進行を明確にし、メンバー全員が共有すること。
過去にあった、あるいは今後予想される問題。
そのアーティストだからこそできるワークショップとは?
美術からみた演劇の発想の貧しさ。外へ出て行く演劇人の責任の重さ(初めて出会う演劇に魅力がなければ演劇嫌いになってしまう)。
仲間以外にも通じる言葉で話すことの必要性。

わたしは以前、ドイツの首都ベルリンで毎年開催されている「若手演劇人の国際フォーラム」という企画に参加したことがあるが、このフォーラムにはディスカッションのワークショップなどもあり、たとえばその一つは「ヒエラルキーなしのシアター」などがテーマになっていた。
劇場や創作現場の権力構造やヒエラルキーをどのように考えていくかということだ。
またほかには、「この複雑にグローバル化した現代にわたしたちはなにをどう表現できるのか」というテーマでのディスカッションや研究もあった。
そしてこのフォーラム参加に際して短いエッセイの提出が求められるのだが、そのテーマは「演劇と人生において大切なこと」だった。
どれも本当に魅力的なテーマだ。しかし日本の劇現場ではこのような本質的な話はほとんど耳にしたことがない。わたしはこのような日本の状況に半ば失望していたのだが、今回の研修では、ベルリンのフォーラムでのディスカッションのような本質的な話が展開されたのだった。

つづく



おすすめ『フォト・ロマンス』

レバノンのラビア・ムルエとリナ・サーネーの『フォト・ロマンス』初日を観た。
観てよかった。
ラビア氏とはTIF2007でご一緒したが、その時からとても共感したりシンパシーを感じたりしている。
やっぱりわたしはこういうもの、演劇が現実と地続きになっていて、演劇が世界を考える道具になるような作品を観たいし作りたいんだなと思う。
ラビア氏の作品を観るといつも、わたしもがんばろうと思う。
29(日)まで、池袋の東京芸術劇場 小ホール1にて。
チケット4500円、ちょっと高いけど観る価値ありです。


LOTP川崎終了

先週末、新作『Life On The Planet』の川崎公演も無事、終了しました。
ご観劇くださった皆さま、ありがとうございました。
今回は安定期に入っていたとはいえ、スタッフキャストには現場でとても心配をかけたと思いますが、なんとか稽古場にも劇場にも通いとおせ、おかげさまで幕を開けることができました。
そして土曜昼の回のアフタートークでは、体調不良のため出演できず、お客様にもご心配をおかけしましたことをお詫び申し上げます。その後体調は回復し、順調です。
終演後も大学での授業や原稿の〆切に追われ、あわただしく過ごしています。

最近はドキュメンタリー路線で作品を製作していましたが、今年はひさしぶりに「更地」やLOTPなどフィクションばかり作りましたが、このふたつの路線で観客層が二分されている印象で、とくにドキュメンタリー系を観ていただいている方々は、フィクションになるととたんに足が遠のく、、という状況があることがわかりました。

もっとドキュメンタリーをと言っていただくことも多く、わたしも作り続けたいのですが、とにかく時間とか予算とか、コストがかかり過ぎるんですね。何年かに一作のペースならばできるかもしれないと思っています。
しかしフィクションにもドキュメンタリーにはない面白さがあります。
状況が許せば、どちらも続けて製作していきたいと思っています。
今年はフィクションばかり新作を4本も作り、今まで年間2本が限度だったことを考えると、異例の本数でした。これはここのところの経済的な問題もあって、職業演出家路線への転向も視野に入れた活動でしたが、来年は予想外にも出産という大仕事が降ってきました。。。

でもまだ12月には『Life On The Planet』の山口YCAMツアー(12月20日)があり、来年1月には、日大×mmp+芸大の企画「戯曲を持って街へ出よう」で、日大建築学科&芸大の学生たちとギリシア劇のショートピース試作品を作って、東京のどこかの街角で上演します(1月9,10日予定)。詳細はまた追って。



LOTP本日初日

新作『Life On The Planet』、本日、川崎市アートセンターで初日を迎えます。

今回の美術は2階建てで、1階が植物工場とモニタールーム、2階には居住空間がふたつなので、約3つの空間でさまざまな時間が同時進行していく。

img20091113.jpg左:舞台空間を全員で確認中。












昨日、一昨日の二日間で明かりを作り、音の調整をして、場当たりきっかけ合わせをしたが、とにかく3つも空間があるのできっかけが複雑で、ゆうべの初めてのテクニカルの入った通しは、きっかけを確認しながらだいぶゆっくりなペースで進んだ。

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右:モニタールームの永井さん





今日は夕べの通しをふまえて各パートで直しをした後、午後からゲネプロに入る。


今回はとても繊細な作品で、ひとつひとつのシーンのカラーやテンポ、つながりのメリハリをしっかりすることがとても大事な作品なので、1時間20分の上演時間中はスタッフにもキャストにも最大限の集中力が求められる。


img20091113_2.jpg左:植物工場の瀧川氏。






そして夜はいよいよ初日。
開演は20:00です。
スタッフ・キャスト一同、劇場でお待ちしています。



公演情報
http://kawasaki-ac.jp/theater-archive/091113/




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