北九州で「出産育児体験を表現に生かす」勉強会をしたのは、小学校でのワークショップを終えた翌日、劇場内の稽古場のような場所で、約3時間程度のものだった。
そもそも劇場内スタッフも含め小規模にやろうということで、参加者はみんなで17名。
その中には、山口で高校演劇ワークショップをしていた時の参加者たち、顧問の先生と、今はもう大学生や社会人になったなつかしい顔ぶれもある。今回は関門海峡を渡って北九州まで会いに来てくれていた。
テーマが理由か、集まったのは2名をのぞいて全員女性。
貴重な男性2名のうちひとりはその山口の演劇部の顧問の先生、もう一人は妊娠前の活動をよく手伝ってくれていたドラマトゥルク志望のYくん。Yくんもわざわざ東京からの参加。そのYくんがこの日の流れをメモしておいてくれたおかげで、こうして時間がたってしまった今も、そのメモをもとにいろいろ思い出すことができる。感謝感謝。
3時間のうち1時間ちょっとは、学芸のNさんの希望で、演劇史におけるわたしの活動の紹介に使った。
わたしの活動はブレヒトの系譜なのだが、これをアリストテレスから始まった近代までの演劇の歴史の流れと続けて説明すると、演劇をほとんど知らない人にもよくわかってもらえる。なぜならやっぱり演劇は人間の存在や生活そのものだからだろう。この説明の仕方はそれこそ山口で高校演劇の指導を担当するうち高校生にもわかりやすい説明として考えだしたものだが、これがけっこう受けて、あちこちでこの話を頼まれるようになった。
それが終わってやっと本題に入るのだが、ここでは参加者全員に「この勉強会に参加した理由」と「出産育児」に対するイメージを話してもらうことにしていた。小規模な企画とはいえ、時間のわりに人数が多いからできるだけ簡潔にお願いしますと言ってもなかなかそうはいかない。
集まった女性もとくに子どもがいる人ばかりではなく、むしろ未婚や既婚でもこどもはいない人の方が多いくらいだ。
ここででた話をYくんのメモをもとに少しまとめてみる。

俳優(女性・独身):姉の子育てをみていると本当にたいへんで、自分が出産して演劇を続ける場合、演劇は作品を作るのに膨大な時間がかかるから、その両立が難しいのではないかと思っている。
高校教師(男性・既婚、中2の娘):今日は母親が娘の試験勉強につきあい、自分だけがここに出席しているという状況も育児分担の不平等問題を含んでいる。日頃も学校の仕事で日付ぎりぎりまで仕事していたりする。出産だけはかわってあげられない。妻は血のにじむような食事制限をして高齢出産を乗り切った。
会社員(女性・独身):妹は3人の子持ちだが、母親の協力で2年前からパートにでている。子育ては生き甲斐になるのでは。
看護師(女性・既婚):「イクメン」や「ワークライフバランス」という言葉が流行っているように、日本はこれから父親も一緒に育てていく方向では。こどもはいないがそれがすっぽり抜けた人生はどうなるだろうか。
学芸(女性・独身):もし障害のあるこどもが生まれたらどうしたらいいのかと思う。
大学生(女性・独身):夢はお母さんになることなので、幸せなイメージしかなかったが、みなさんの話を聞いているといろいろ問題があるんだなと思う。
主婦(女性・既婚、小1と3歳の双子):夫婦二人だけなのでサポートは夫のみ。育児は困難。イメージがないまま産んだので、補助制度はあるのかもしれないが実際には使えなかった。母親世代からは「わたしたちはそんな補助制度がない時に産み育てたんだ」と責められることも。公的な場所でも子連れに対する風当たりは強い。本当に「ベランダから」と考えたこともあった。虐待も他人事ではない。困難な時こそ芸術の必要性を感じ、育児で苦労する母親たちを芸術で癒したいと思ったが難しかった。
保育師(女性・独身):協力者がいなくてつらいと感じることもあるかもしれないが、自分が成長できるというイメージも。社会とのつながりが保育園とか限られたところしかない。まわりの理解が低い。
大学生(女性・独身):何かを得たいと思って今回の劇場の企画全部に応募した。
学芸(女性・独身):日本はまだ子育てしずらい環境。待機児童も多く、女性の社会復帰が難しい。子連れの外出が難しい。道路や公共の乗り物のインフラが足りていない。もっと子育てしやすい環境がいい。
学芸(女性・独身):小さいこどもを持つ母親が、ダンスワークショップに参加して「久々に自分のために楽しめる時間だった」と言っていた。
てんかんで投薬すると出産できなくなる?
俳優(女性・既婚、2歳):こどもをあずけて仕事をすることで、自分の心にも余裕ができ、絆が深まり、成長が感じられるようになったが、あずける時こどもが泣くとこのままでいいのかという悩みも。子どもの成長は楽しいし、自分を知ることもでき、人との向き合い方も勉強になった。
学校勤務(女性・既婚):子どもはいないが、理由は経済的なこと。まだ自分も勉強したいし。
自分のしたいことはやったりやめたりできるが、育児は止めることが出来ないので、おもしろそう、支えになるだろうとは思っても、そんな責任をおったことがないので怖い。
学芸(女性・独身、3人):自宅に産婆さんが来て産んだ。今は清潔国家で守られすぎていて、子どもを抱いて初乳を飲ませて、という感覚からかけ離れている。
五島列島に住んだ時、近所の老夫婦が午後4時になると子どもをさらっていって面倒をみてくれた。その時の経験が支えになっていて、こういう集団的育児への取り組みを広めたいと思っている。
大学生(女性・独身):適齢期の女性の話を聞いていると、仕事や経済面での問題から出産育児に対してマイナスのイメージが強くなりすぎている。
学芸(女性・独身):男に負けたくないと思って仕事をしてきたが、ふと出産育児に対する不安が自分のなかにあることに気づき、みんなで話してみたいと思った。
「生き甲斐」や「成長」「社会や男性の意識変化」というプラスの面も少しはでてきたものの、具体的な話ははしょったが、「男女の育児分担の不平等」「女性の社会復帰や仕事との両立の難しさ」「女性の出産における肉体的負荷」「子育て環境の悪さ」「子育ての困難さ」など、あっとう的にマイナスイメージや問題について話される時間の方が多かった。
ここででてきた話は、わたし自身もとてもリアルに感じていることばかりだ。
この勉強会では参加者はほとんど女性だったが、今年のワークショップではぜひ男性たちにも参加してもらいたいと思っている。やっぱり男性たちにもう少し理解と変化をお願いしなければ、女性たちの苦しみはなかなか取り除くことができないと思う。日本ではまだ「社会」とは=「男性に有利なルールで動く世界」のことだと強く感じる。
たとえば、いろいろ問題はあるけど一つの例として、女性が育休や産休を取らざるを得ないのに対して、男性はそうなっていないということがある。建前上、男性も育休を「取っていい」ことにはなっているが、「取らざるを得ない」ものではない。
でも男女ともに「育休」を義務づけたとしたら、雇用の機会のみならずプロセスもそれでやっと平等になる。そうしたらキャリアアップをめざす人は男女ともにこどもを持たなくなるだろうか?
それから世代間の問題もある。
ワークショップではもちろん(男性)社会の構造や世代間の問題の他にも、歴史的な視点とか、子どもの存在そのものとか、既婚未婚、子あり子なしにかかわらず、参加してくださる方々のリアルな経験や思いをもとに、いろんな角度から一緒に「子育て」について考えながら、表現を探り、作っていきたいと思う。
そしてそれによって地域に新しいつながりや活動をつくっていけたらいいなと思う。
そもそも劇場内スタッフも含め小規模にやろうということで、参加者はみんなで17名。
その中には、山口で高校演劇ワークショップをしていた時の参加者たち、顧問の先生と、今はもう大学生や社会人になったなつかしい顔ぶれもある。今回は関門海峡を渡って北九州まで会いに来てくれていた。
テーマが理由か、集まったのは2名をのぞいて全員女性。
貴重な男性2名のうちひとりはその山口の演劇部の顧問の先生、もう一人は妊娠前の活動をよく手伝ってくれていたドラマトゥルク志望のYくん。Yくんもわざわざ東京からの参加。そのYくんがこの日の流れをメモしておいてくれたおかげで、こうして時間がたってしまった今も、そのメモをもとにいろいろ思い出すことができる。感謝感謝。
3時間のうち1時間ちょっとは、学芸のNさんの希望で、演劇史におけるわたしの活動の紹介に使った。
わたしの活動はブレヒトの系譜なのだが、これをアリストテレスから始まった近代までの演劇の歴史の流れと続けて説明すると、演劇をほとんど知らない人にもよくわかってもらえる。なぜならやっぱり演劇は人間の存在や生活そのものだからだろう。この説明の仕方はそれこそ山口で高校演劇の指導を担当するうち高校生にもわかりやすい説明として考えだしたものだが、これがけっこう受けて、あちこちでこの話を頼まれるようになった。
それが終わってやっと本題に入るのだが、ここでは参加者全員に「この勉強会に参加した理由」と「出産育児」に対するイメージを話してもらうことにしていた。小規模な企画とはいえ、時間のわりに人数が多いからできるだけ簡潔にお願いしますと言ってもなかなかそうはいかない。
集まった女性もとくに子どもがいる人ばかりではなく、むしろ未婚や既婚でもこどもはいない人の方が多いくらいだ。
ここででた話をYくんのメモをもとに少しまとめてみる。












俳優(女性・独身):姉の子育てをみていると本当にたいへんで、自分が出産して演劇を続ける場合、演劇は作品を作るのに膨大な時間がかかるから、その両立が難しいのではないかと思っている。
高校教師(男性・既婚、中2の娘):今日は母親が娘の試験勉強につきあい、自分だけがここに出席しているという状況も育児分担の不平等問題を含んでいる。日頃も学校の仕事で日付ぎりぎりまで仕事していたりする。出産だけはかわってあげられない。妻は血のにじむような食事制限をして高齢出産を乗り切った。
会社員(女性・独身):妹は3人の子持ちだが、母親の協力で2年前からパートにでている。子育ては生き甲斐になるのでは。
看護師(女性・既婚):「イクメン」や「ワークライフバランス」という言葉が流行っているように、日本はこれから父親も一緒に育てていく方向では。こどもはいないがそれがすっぽり抜けた人生はどうなるだろうか。
学芸(女性・独身):もし障害のあるこどもが生まれたらどうしたらいいのかと思う。
大学生(女性・独身):夢はお母さんになることなので、幸せなイメージしかなかったが、みなさんの話を聞いているといろいろ問題があるんだなと思う。
主婦(女性・既婚、小1と3歳の双子):夫婦二人だけなのでサポートは夫のみ。育児は困難。イメージがないまま産んだので、補助制度はあるのかもしれないが実際には使えなかった。母親世代からは「わたしたちはそんな補助制度がない時に産み育てたんだ」と責められることも。公的な場所でも子連れに対する風当たりは強い。本当に「ベランダから」と考えたこともあった。虐待も他人事ではない。困難な時こそ芸術の必要性を感じ、育児で苦労する母親たちを芸術で癒したいと思ったが難しかった。
保育師(女性・独身):協力者がいなくてつらいと感じることもあるかもしれないが、自分が成長できるというイメージも。社会とのつながりが保育園とか限られたところしかない。まわりの理解が低い。
大学生(女性・独身):何かを得たいと思って今回の劇場の企画全部に応募した。
学芸(女性・独身):日本はまだ子育てしずらい環境。待機児童も多く、女性の社会復帰が難しい。子連れの外出が難しい。道路や公共の乗り物のインフラが足りていない。もっと子育てしやすい環境がいい。
学芸(女性・独身):小さいこどもを持つ母親が、ダンスワークショップに参加して「久々に自分のために楽しめる時間だった」と言っていた。
てんかんで投薬すると出産できなくなる?
俳優(女性・既婚、2歳):こどもをあずけて仕事をすることで、自分の心にも余裕ができ、絆が深まり、成長が感じられるようになったが、あずける時こどもが泣くとこのままでいいのかという悩みも。子どもの成長は楽しいし、自分を知ることもでき、人との向き合い方も勉強になった。
学校勤務(女性・既婚):子どもはいないが、理由は経済的なこと。まだ自分も勉強したいし。
自分のしたいことはやったりやめたりできるが、育児は止めることが出来ないので、おもしろそう、支えになるだろうとは思っても、そんな責任をおったことがないので怖い。
学芸(女性・独身、3人):自宅に産婆さんが来て産んだ。今は清潔国家で守られすぎていて、子どもを抱いて初乳を飲ませて、という感覚からかけ離れている。
五島列島に住んだ時、近所の老夫婦が午後4時になると子どもをさらっていって面倒をみてくれた。その時の経験が支えになっていて、こういう集団的育児への取り組みを広めたいと思っている。
大学生(女性・独身):適齢期の女性の話を聞いていると、仕事や経済面での問題から出産育児に対してマイナスのイメージが強くなりすぎている。
学芸(女性・独身):男に負けたくないと思って仕事をしてきたが、ふと出産育児に対する不安が自分のなかにあることに気づき、みんなで話してみたいと思った。












「生き甲斐」や「成長」「社会や男性の意識変化」というプラスの面も少しはでてきたものの、具体的な話ははしょったが、「男女の育児分担の不平等」「女性の社会復帰や仕事との両立の難しさ」「女性の出産における肉体的負荷」「子育て環境の悪さ」「子育ての困難さ」など、あっとう的にマイナスイメージや問題について話される時間の方が多かった。
ここででてきた話は、わたし自身もとてもリアルに感じていることばかりだ。
この勉強会では参加者はほとんど女性だったが、今年のワークショップではぜひ男性たちにも参加してもらいたいと思っている。やっぱり男性たちにもう少し理解と変化をお願いしなければ、女性たちの苦しみはなかなか取り除くことができないと思う。日本ではまだ「社会」とは=「男性に有利なルールで動く世界」のことだと強く感じる。
たとえば、いろいろ問題はあるけど一つの例として、女性が育休や産休を取らざるを得ないのに対して、男性はそうなっていないということがある。建前上、男性も育休を「取っていい」ことにはなっているが、「取らざるを得ない」ものではない。
でも男女ともに「育休」を義務づけたとしたら、雇用の機会のみならずプロセスもそれでやっと平等になる。そうしたらキャリアアップをめざす人は男女ともにこどもを持たなくなるだろうか?
それから世代間の問題もある。
ワークショップではもちろん(男性)社会の構造や世代間の問題の他にも、歴史的な視点とか、子どもの存在そのものとか、既婚未婚、子あり子なしにかかわらず、参加してくださる方々のリアルな経験や思いをもとに、いろんな角度から一緒に「子育て」について考えながら、表現を探り、作っていきたいと思う。
そしてそれによって地域に新しいつながりや活動をつくっていけたらいいなと思う。