阿部初美のブログ

演劇の演出家です。

2019年12月

『青い鳥』未来の国から来たみなさんへ

(パンフレット原稿より)

チルチルミチルが青い鳥を探していろんな世界を旅する『青い鳥』は、ここ日本では、多くの人がなんとなく内容を知っているお話だと思います。
わたしもその一人だったのですが、自分の子育てを通してこの『青い鳥』というお話と再会することになりました。

わたしにとって子育ては、妊娠の時の体調不良から、出産後の睡眠不足に苛まれながらの重労働、自分のやりたいことを犠牲にしなければならない日々、社会からの孤立など、本当に試練と忍耐の連続で、よく耳にしていた「育児放棄」や「虐待」は、けして遠い世界のことではないことを、身をもって知る機会となりました。それは子育ての実情をまったく知らなかったわたしにとって、本当にショッキングなことでした。
そしてその体験は、親になった多くの人たちのきつさを、自分が学び実践してきた演劇の知恵や手法で軽減することはできないかという思いに変わり、世田谷パブリックシアター主催の「子育てを考えるワークショップ」のファシリテーターを務めさせていただいたことでその思いを実現することができました。その後このワークショップは全国へと広がり、その土地土地のみなさんと「産み育て」について、いろいろな思いを共有したり、様々な問題を演劇の手法を使って考えてきたのですが、多く地域で感じたのは、やはり今の子育て環境の厳しさでした。
この過程で、一冊の本との出会いがありました。産婦人科医の池川明さんによる、生前記憶を持つ子どもたちの証言をまとめたものでした。そしてその子どもたちの証言の多くが『青い鳥』に登場する「未来の国」にそっくりだと書かれていたのです。それがこの『青い鳥』との再会のきっかけです。
小学生に上がったばかりの子どもと『青い鳥』を手にとり、一緒に読んでみると、そこには本当に驚くような世界がありました。「未来の国」とは、これから生まれてくる子どもたちがみんな地球に降りていくことを楽しみに準備をしている国でした。
生まれてきた子どもたちも、今は大人になったわたしたちも、みんなこんなふうに地球に生まれる日を楽しみにお空で待っていたのでしょうか。みんななにをもって、なにをしに生まれてきたのでしょう。 
そんな空想に浸りながら読む『青い鳥』は日々の子育てのきつさを忘れさせ、子どもが生まれてきてくれたことや、この世界に生きることの喜びを思い出させてくれるような物語でした。
もちろんメーテルリンクは美しい夢だけをわたしたちに見せてくれるわけではなく、この世界の残酷さや理不尽さも同時に描き出しています。しかしそれさえも越えた、この地球上に生まれ、生きることの不可思議さや切なさ、そして喜びを感じさせてくれるファンタジーをわたしたちに届けてくれています。
こんなすてきなファンタジーに出会えたことは、本当に幸せなことでした。そしてこのメーテルリンクからのプレゼントを劇場で多くの子どもたちや、かつて子どもだった大人、そして子育てでたくさんの思いを抱えた大人のみなさんと共有できたらと思いました。それが今回実現できたことに、心から感謝しています。

最後に。この『青い鳥』はとても謎めいたお話でもあります。メーテルリンクはそのこたえを探しだす楽しみも、わたしたちにたくさん残してくれました。さて、みなさんは仕掛けられた謎々にどんなこたえを見つけるでしょう?たぶん、こたえは一つではないはず。みなさんのこたえを、ぜひお聞かせくださいね。


開演15分前から、客席にて、今回舞台で生演奏してくださる大谷能生さんのクリスマスソングのサックス演奏があります!ぜひ余裕をもって会場に来てくださいね🌟


21日(土)15時、22日15時、26日15時の回の桟敷席は売り切れとなりました。関係者扱いのみ席がお取りできます。ご相談ください。桟敷席の割引はありませんが、指定席は関係者扱いで4500円→4200円になります。


screenshot_20191129_210747_com.google.android.youtube

screenshot_20191129_210936_com.google.android.youtube

screenshot_20191129_210848_com.google.android.youtube



クリスマスイブの「青い鳥」

鳥取から帰って翌々日に、子どもステージ『青い鳥』の稽古が始まりました。毎日電車に乗って稽古場に通うのも10年ぶりです。でも10年も経ったような気がしないのはどうしてだろうな。むしろ、10年前よりすっきりいろんなことが見渡せるような気もしているのが不思議です。

さてこの『青い鳥』というお話は、意外と知られてないかもしれませんが、クリスマス・イヴの夜が舞台になっています。貧しい木こりのおうちのチルチルとミチルの兄妹はクリスマス・イヴの夜、今年はサンタクロースはプレゼントをもってきてくれないと母親から知らされ、お金持ちの隣家のクリスマス・パーティの様子を羨ましくのぞく、というところからはじまります。
今回われわれの『青い鳥』は現代風にしているところもあって、チルチルミチルがのぞくのは隣家ではなく、テレビの中のきらびやかなクリスマス・パーティ。そこに魔法使いがあらわれ、自分の病気の娘のために青い鳥を探す旅に出てほしいと2人に頼みます。
17313491.f4050e887091a9e47c7dd2b7e97b0977.19062113
写真:「思い出の国」でおじいさんと再会

お供は犬のチロと猫のチレット。そして「光」。原作では、火や水、パンや砂糖の精も一緒ですが、円子どもステージの上演枠は1時間20分なのでそれに応じてお供は3人にカットしています。
まず2人が向かった先は、亡くなったおじいさんとおばあさん、弟妹のいる「思い出の国」そこで懐かしい家族との再会を果たし、旅が始まります。
今回の作品は、生の舞台と映像を組み合わせた構成で、ここは映像のシーンになります。
17313491.6acfddbf023dfabdef44224061bcc26a.19062113
写真:「思い出の国」でおばあさんのスープを食べる。

次に2人が青い鳥を探しに向かうのは自然の秘密の番人である夜の女王の国。青い鳥を人間にわたしてはならないと、ひそかに2人の旅の邪魔をするのは猫のチレットです。猫は光の目を盗んで2人を夜の森に誘いだし、子どもたちを人間に恨みをもつ森の木々や動物たちに襲わせます。
img_20191203_123513 (1)
写真:「森」でチルチルミチルを襲う動物たち。ただいま稽古中。

「幸福の楽園」ではご馳走食べ放題、サンドイッチマンの「ウマーベラス」にのってカラオケでおおはしゃぎする太った幸福たちの宴会に招かれたり。
screenshot_20191129_211418_com.google.android.youtube
写真:太った幸福たちの世界。

そうして旅の最後にやってくるのは「未来の国」。そこは、生まれる前の赤ちゃんたちが、地球に降りていく時にもっていくものを準備しながら過ごすお空の国。そこで2人はこの世界に生まれ生きることの不思議、せつなさ、喜びを知ることになるのですが。今回わたしたちの『青い鳥』では、このあとに小さなオリジナルのシーンをひとつ付け加えました。
screenshot_20191129_210936_com.google.android.youtube
写真:今日生まれる子どもたちを船に乗せて地球に送る「時のおじいさん」。
screenshot_20191129_210747_com.google.android.youtube
写真:「未来の国」で不思議な出会いを体験するチルチルミチル。
img_20191203_103034
写真:その日地球に生まれる子どもたちを運ぶ船を運航させる「天使」大窪あきら氏。稽古場にて、ただいま稽古中。

そうして旅を終えたチルチルミチルは、クリスマスの朝、自分たちの家で目を覚まします。
そこに魔法使いにそっくりな隣家のおばさんがやってきて、病気の娘にチルチルの青い鳥をもらいたいと告げるのでした。
このお話は旅から帰ったチルチルが朝目を覚ますと、自分の家に青い鳥がいた、幸せは身近にあるもだというふうに認識されていることが多く、わたしもその1人だったのですが、じつはそんなに単純なお話ではなかったのです。
『青い鳥』はとてもなぞめいたお話なのです。作者のメーテルリンクはこのお話の中でわたしたちにとってもすてきな謎を投げかけています。さて、この謎に観客のみなさんはどんな答えを出すでしょう!?
「幸せ」とはなにか、また生まれることの意味に焦点をあてた『青い鳥』になっています。わたしたちから観客のみなさんへのクリスマス・プレゼントとして、青い鳥の聖夜を過ごしていただけたらとても嬉しいです。


プロフィール

drecom_abehatsumi

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ