「青い鳥」湘南台公演が終わった3日後から、NPO芸術家と子どもたちの仕事で、都内の小学校6年生と卒業までに演劇作品を作るワークショップの仕事が始まり、休む暇もなく、6年生たちとのワークショップに明け暮れていた。
9月に2日間かけて、登校しているクラス全員の子どもたち37人と個人面談という無謀なことをしてヘロヘロになったけれど、子どもたちが今どんなことを感じて生活しているのかがとてもよく見えてきた。
そこで見えてきたことから4つのテーマをとりだして、作品を作ることに決めた。
「空気を読む」「陰口」「将来の不安」「中学校へいったら」
想像力豊かで、表現を考えるのが得意な子どもたちで、できるだけ自分たちの力で作ってもらうことにして、こちらからの極力指示をおさえていたけれど、心の中の葛藤や友だちとの関係、自分たちの状況をとてもよく表現してくれていた。
担任のT先生はクラスの一人一人をまるで家族のように(あるところではもしかしたら家族以上に)本当によく理解していて、ワークショップ後のふり返りではクラスの一人一人について話し合った。主催のNPO芸術家と子どもたちの担当者のFさんも本当に熱心な方で、T先生と3人、子どもたちを劇作りの体験を通して、人生の次のステージに送り出そうと、日々連絡を取り合い、準備を進め、本番ふくめてあと3回というところまできた2月末、アーツカウンシル東京から、突然ワークショップ中止の連絡が入った。
もう作品の構成もほぼ決まっていた。次のワークショップまでに、子どもたちにセリフを覚えてもらうために急いでテキスト作りをしていた。突然その必要がなくなってしまった。突然すべてが消え、まもなく子どもたちは学校にも行けなくなった。あまりにも突然の変化に、現実は受け入れがたく、ちゅうぶらりんのまま、なすすべもなく呆然としていた。少しして、子どもたちと先生に手紙を書いた。
中途半端になってしまったけれど、どれだけ子どもたちに演劇を通して、自分や友だちを見つめなおす体験をしてもらえただろうか。希望もある。そして蒔いた種も。その種はいつか、みんなの中で芽を出してくれるだろうか。本当にかわいい子どもたちだった。もう会えないということが信じがたい。
卒業までの少しの間、一緒に過ごさせてくれてくれて、一緒に悩みを考えさせてくれてありがとう。
わたしたちにとって、あなたたちと過ごせた時間は宝物のような時間でした。
長い人生、こんなこともある、と思う。ドイツを行き来していた頃、ああいい言葉だなといつも思っていた言葉がある。Das ist Leben.「これが人生」。なにかどうしようもないことが起こった時なんかに言う。「これが人生」。そんなに都合よくできていない。
それでも長い人生に経験することが、戦争なんかじゃなくてよかった。
小学校でのワークショップの他にも同時進行中の仕事がいくつかあったけど、芸術やスポーツはまっ先に切られるところで、それらの仕事は延期になったり、先が見えなくなったりしたけど、またいつかやれる日が来るだろうくらいの気持ちでいた。
自分の子どもも同じく休校でうちにいるようになった。
ほどなく「呼吸器に基礎疾患のある人は重症化する」という話を聞いて、自分があてはまることに思い当たり、毎年インフルエンザをもらってきてはべったり離れず必ずわたしにうつす子どもに話をして、手洗いうがいをしっかりやってくれるように頼んだら、わたしにうつしてしまったら、という恐怖からか、わたしからべったり離れなくなり、ストレスからくる頭痛や腹痛をくりかえすようになってしまった。2週間の休校期間が終わり、学校が再開すると聞いた時は、学校に行かせるのはやめようと思った。
そこで緊急事態宣言となり、学校がはじまることはなかった。
なくてよかった。わたしの住む地域では、小学生の感染者が3人出たが、そのうちの一人が発症したのは、緊急事態宣言の翌日だったらしい。もし宣言がなく、学校が再開していたら、クラスターになった可能性もある。
会社員の夫は在宅ワークになることもなく、毎日変わらず出勤し続け、わたしにべったりでちょっと赤ちゃん返りしてしまったような10才くんと家に二人きりで家事以外なにもできない日々が続いていた。
そこにひさしぶりに独身時代、舞台作品を一緒に作ってきた制作の聖子ちゃんから連絡があった。
今こそなにか始める時ということもわかっていたけれど、一日中べったり子どもにはりつかれていては何をすることも叶わなかった。
そこにテレビのニュースが流れこむ。「子どもと密室続きでストレスフルな親が多く、子どもに手をあげてしまいそうという人もいる。」その状況、痛いほどわかる。追い詰められていく。本当はそんなことしたくないのに。
やっぱり今、なにかできることを始めなきゃならない、と腹をくくった。今、つながる手段はオンライン。オンラインには苦手意識をもってたけど、はやくからその可能性をおしえてくれた聖子ちゃんもいてくれるし、そんなことを言っている暇はなく、準備に時間をかけずにすぐに届けられそうなこととして、親子むけのオンラインリーディングを考えた。
自宅待機している俳優たちに声をかけると、ほとんどが快諾してくれた。無償にもかかわらず。。
その多くは、子育て中の俳優たちで、そのため舞台の仕事はわたしのようにほとんどできなくなっている俳優たちだけど、独身時代には演劇界で大活躍していた人たちもいて、実力派ばかり。ほんとにぜいたくなリーディングになった。でもそうじゃなければ、目的を達成できない。つまらないものなら見てもらうこともできないんだから。
こうして、東京、京都、札幌の演劇人たちとオンラインリーディングの企画が始まった。