阿部初美のブログ

演劇の演出家です。

演劇

産み育てを考えるWS(第2週目)in鳥の演劇祭

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昨日、2週末にわたって開催の全8回のワークショップを終えて帰宅しました。
ご参加いただいたみなさま、準備を整えサポートしてくださった鳥の劇場のみなさま、本当にありがとうございました。
2週目のスタートは鳥劇のある鹿野の町から車で15分くらい?、山陰本線の「浜村」駅近くにある気高町子ども食堂くるりから。残りの3日間は鳥劇近くにオープンした鹿野町のしかの宿山根町にて。今年はこの2週間のWSでずいぶん鳥取の子育て事情が見えてきました。


1日目 11月1日(金)18:30ー21:00 
気高町スマイルセンター子ども食堂くるり

参加:Bさん(2児のパパ)、Yちゃん(5歳男児のママ)、Yさん(3児のママ)、Kさん(2歳男児のママ)、Mさん(女児のママ)、鳥劇俳優の大川さん

18時から子ども食堂がオープン。われわれも食堂で大人200円、子ども無料の手作りごはんをいただいて、18:30からワークショップスタート。利用者さんの参加が3名と少なかったのは、WSに参加しようとすると食事の時間が30分しかとれなかったり、小さな子どもたちを膝の上や隣の席に座らせて面倒見ながらの食事は簡単に席を立ちにくい状況だったり、毎週会う友人と話がしたいとか、聞いたことのないイベントへの警戒心もあったと思う。興味をもってくれた方も、子どもが離してくれなかったり、「21時までは無理」という声もあった。みなさんはだいたい20時半頃に帰宅されるというから時間帯も難しかったのかもしれない。利用者のほとんどは母子で、たいていは小さな子どもを2~3人連れて来られている。お隣の席の方に聞くと「パパは仕事」とのこと。金曜なので母子はここで食べて楽をして、パパたちは飲みにいく、という感じなのかなと想像する。
それでもご参加くださった3名の方の1人はこの日子ども食堂初利用という小学校で先生をされているパパ(男性利用者はこの方お一人)、3人のお子さんのママ、1人のお子さんのママでした。
関心事をそれぞれ書いていただいて、3人ずつのグループに分かれて人形劇を作ることに。

グループ1 みんなさみしい
お盆で実家に帰省してきた姉と弟、それぞれ家庭をもち子どもたちも一緒。子どもと孫を喜んで迎える親(おじいちゃん、おばあちゃん)が姉と弟に近況をたずねる。
姉は3人の子どもを育てているが、上の子が小学校に入学し、将来の子どもたちの自立の予感を感じ、子どもたちがいずれ自分のもとを離れていくことを想像して今から子離れできるかどうかを不安に思っているとうちあける。「子どもはみんな出ていくのよ、あんたたちだって出ていったじゃないの」とおばあちゃん。
一方、弟は2人の子どもを育てているが、下の女の子をついかわいがってしまい、上のお兄ちゃんがさみしい思いをしているのではと危惧している。姉は「上の子」として、下の弟ばかりかわいがっていたと両親(おじいちゃん、おばあちゃん)を責める。「そんなことはない💦」とあわてるおじいちゃんおばあちゃんは「それよりあんたたちももうちょっと実家に帰ってきなさいよ!わたしたちだってさみしいのよ!」と言う。
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上演後の話し合い
やはり子離れはとても辛いと言う人が多い。子離れに向けて親も趣味や仕事などを見つけたり心の準備をしていった方がよさそう。上の子と下の子、両方かわいがっているつもりでも上の子がさみしい思いをしている場合が多い。上の子にもたくさん愛情をかけるべし。

グループ2 ママになって
イケてる独身生活を楽しんでいた頃の様子。結婚して子どもを産むと、、、家事育児に追われ、夫の協力は不十分。どんどん黒ママになっていってしまう。
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上演後の話し合い
独身時代のイケイケなシーンが入っていたのがよかった。その後の変化が際立つ。一見すると独身時代の方が楽しく、よかったと感じられるかもしれないが、子どもを産んでからは子ども優先の生活になり、他者(子ども)のために自分を犠牲にするという経験を通して実は楽しかった独身時代よりも人として成長しているのでは。エゴからの解放。
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この日も出てきたのはパパの家事育児への協力の不足問題でした。


2日目 11月2日(土)10:00−12:30 
しかの宿山根町

参加:Aちゃん(5歳、3歳、1歳のママ)、Mちゃん(2ヶ月の赤ちゃんのママ)、Hさん(75歳)、鳥劇れなぞうさん(7歳女子のママ)

この日のメンバーはそれぞれ状況がバラバラで、たまには子どもの真似をしてみるとか実況中継してみるとか子どもに寄り添うワークショップをやってみてもよかったけれど、演劇祭真っ只中で場所の確保が難しく、山根町のキッチンとリビングはせまくてモノもいろいろあって、そういうワークショップをすると走り回れるようになった年頃の子どもはものすごくはしゃいでしまって危険がともなうので、子どもたちが元気に動き回る中で、子どもにイライラしてしまうれなぞうさんとAちゃんのペア、75歳のHさんと2ヶ月の赤ちゃんのママMちゃんのペアで今日も人形劇。

グループ1子どもにイライラ
子どもの意思を尊重したり発達段階に応じた子育てを提唱するモンテソーリ実践中のママ。好きなテレビを見終わるまでお風呂に入りたくないという子どもの意思を尊重し待つが、テレビが終わるとおじいちゃんと遊びはじめてしまい、イライラしてしまう。子どもはそういうものなのに、イライラしてしまうわたしおかしい?

グループ2子育ての苦労と喜び、街頭インタビュー
Mちゃん・妊娠、出産、2ヶ月の赤ちゃんを育てながらこの人生の大きな体験で自分の心と体の大きな変化を感じている。独身時代、「弱者」をどこか他人事のように感じていたけど、初めて自分が「弱者」の立場を経験して他人事ではなくなった。子どもたちが育って生きていく「社会」を考えるようになった。100年後の世界はどうなっているのか。
Hさん・子育ては子どもを育てるが、自分も子どもに育てられる。新しい経験をたくさんさせてもらえる。
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上演後の話し合い
まだ、どこか神聖な感覚のある出産を終えたばかりのMちゃんにとって子どもにイライラする日々は未知の世界。数年後には自分もこうなっているのかも!?日々3人の子どもの世話におわれるAちゃんにとって「100年後」のことを考えられるMちゃんすごいな!バラバラな状況だからこそお互いの状況や思いを知る新鮮さがありました。演劇の視点からみると、「イライラするのはおかしい」のではなく、それが人間であり、そういう心の動きがあるということをまず認めて受け入れていく、ということになります。演劇は人間のあらゆる感情や思考の可能性を、目をこらし、心をすましてキャッチし、それを身体なりなんなりで表現していく芸術であるとわたしは考えています。

3日目 11月3日(日)10:00−12:30 
しかの宿山根町

参加:演劇祭の研修生の若手演劇人3名、Kさん(2歳男児のママ)、鹿野へ移住を決めたご夫婦YさんとMちゃん(2ヶ月の赤ちゃん)、Yちゃん(5歳男児のママ)、Hさん前半のみ参加(75歳)

演劇祭の研修生3名が参加してくれました。ワークショップや作品で積極的に社会と関わりたいという若手演劇人がこんなにいるのに驚きました。演劇人たちの意識もだんだん変わってきてるんだなあと実感。
まずみなさんに関心事を書き出してもらって質疑応答からスタート。最初から積極的な話し合いになり、長い時間質疑応答を続ける。たとえばYさんからはジェンダー問題、男には育児や家事ができないと最初から決めつけられバカにされてる感じがする(ちょっとしたことをしただけで「お父さんなのに立派ですね」と褒められたり)。未婚の女性の研修生から「いつ産む?ライフプランは?」という疑問、遅くなると育児と介護が重なったり、産んだ後の体力がなく辛い。またライフプランを立てても子どもが生まれるとその通りにいかないことが多い、むしろその不自由さを楽しめるといいなどの意見。
話をしばしした後、ミニワークショップをひとつ。いちばん古い記憶を思い出して1人ずつ話す。大人になると子どもだった頃を忘れ、子どもの心に寄り添うことが難しくなってしまいますが、こうして自分が子どもだった頃の記憶をたどることで、子どもの心を思い出し近づくことができたりもします。
演劇では強い感情や印象をともなう記憶は古いものに多く、それを使って自分の感情を動かすという俳優のトレーニングなどもあります。
その後は、同時期開催中の札幌の櫻井幸絵さんがファシリテートする産み育てWSで製作された札幌の子育て事情を表現した人形劇を4本、みんなで観劇後、札幌に感想を書いて送りました。
〜札幌バージョン〜
グループ1「いつ産んでもいい」若い時に産んでも、年とって産んでもそれぞれメリットはある
グループ2「同じ保育園の親が気になる」隣の芝生は青く見える
グループ3「名もなき家事」子沢山の家庭、夫は全く家事育児の協力をしない
グループ4「一人っ子」みんなで親戚みたいなコミュニティが作れたらいいね

4日目 11月4日(日)10:00−12:30 
しかの宿山根町

参加:Yちゃん(5歳男児のママ)、Fさん(7歳男児のママ)、Sちゃん(3歳児のママ)、Tさん(10代後半と20代のママ)、Hさん(75歳)、鳥劇の佳子さん

低年齢の子どもを育てるママが3人そろい、子どものへ社会のルールの教え方、しつけなどに悩みや疑問をもつという共通点があり、それをテーマに3人で人形劇製作。かたやある程度成長したり自立したりしている子どもをもつTさんとHさんと佳子さんの3人グループで人形劇を製作。

グループ1:社会のルール、どう伝えればいいの?
Sちゃんの場合・スーパーにて。子どもが売り物のぶどうを食べてしまう。仕方なく買ってすぐ車に子どもを連れていって叱る。夜、子どもの寝顔を見ながら反省。周囲の人の目が気になって車に連れていって叱るけど現場でその時叱った方がいいというし、そんなことするならもうご飯食べさせてあげない!と言ってしまったり、自分の叱り方はこれでいいのかな。。
Fさんの場合・スーパーにて。ほしいものは1つだけ買うと約束したのに2つ買うと言ってきかない子どもにイライラし、やはり車に連れ帰って説教する。家に帰ってもイライラがとまらず、その後も子どもに冷たく接してしまう。夜、子どもの寝顔を見ながら反省。大人に説教するみたいにしてしまうし、後にひきずってしまうし、どうにかならないかな。。
Yちゃんの場合・スーパーにて。ガチャガチャをあきらめない子どもにその場で説教。その後もイライラしてしまい子どもが近寄ってきても「イライラするから近寄らないで」と言ってしまう。子どもはしょんぼり「ごめんなさい」と言う。夜、子どもの寝顔を見ながら反省。叱り方はこれでいいんだろうか。。子どもに母の思いは伝わっているのかな。。
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上演後、先輩ママ方から「よくわかる」「同じ経験をしてきた」「叱らない親よりはぜんぜんいい」「わたしは悲しい、とかわたしはこう思う、と子どもに伝えていくのがいいと言いますね」「子どもにはその場で叱らないと伝わらない、周囲の目は気にせず、自分の信念をもって、子どもを思うなら後でではなく現場で叱るべき」などの意見。
子どもをかわいいと思い愛する気持ちと子どもの言動が許せずイライラする気持ち。子育ての中で親の気持ちはたえず揺れているけれど、その揺れは必要不可欠なもの。「子育てはこれでいい」と我が身をふりかえることのない子育てはおかしいでしょう?という北九州の先輩母の言葉にわたし自身も救われたことをお伝えする。その揺れの中から自分の信じる道を探していくしかなく、それがやはり人としての成長につながっていくんですね。
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グループ2:理想の社会
Hさんの食堂には今日もいろんな人がきます。親子、作った野菜を届けてくれる近所のおじさん、受験生。そんな人々をHさんはやさしく迎え、みんなの居場所になっています。
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上演後の話し合い
いまの社会は本当に希望がなく、杓子定規なルールばかり。みんなで理想の社会を作っていけたら本当にいい。子育て真っ最中のママたちからは今のこのたいへんな時期を乗り越えて、先輩ママたちのように理想の社会について考えられる境地にいきたいという感想。社会はすぐには変わらないけど、だからと言ってなにもしなければ本当になにも変わらない。そのために自分はなにができるのか、半歩ずつでもいいからそれぞれが歩いていけたらいいですね。
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FM RADIOBIRDでも鳥取の子育て事情についてご報告

鳥取東部子育て事情

今年は、二週間、8回のワークショップを通して鳥取東部の子育て事情が垣間見えてきました。
それはおもに以下2つ。
1、地元が鳥取東部のパパは家事育児協力に積極的ではない場合が多い。
2、育休1年での途中入園希望者が多く、その背景にはそれ以上休みをとると会社の人たちから白い目で見られるという事情がある。

1について、移住者のファミリーは鳥取の自然がいっぱいの子育て環境のよさの満喫しているようでしたが、地元出身のパパをもつママは夫の家事育児協力のなさに不満を抱えているケースが多く、このテーマはWS中たびたび表れてきました。平日、子育て支援センターでのWSに参加して、「また参加したいけど、夫はこういうのは好きじゃないし、夫を置いては来られないから土日の参加は無理だなあ。。。」というママの声がよく聞かれたり。そういう事情もあって、土日祝開催の山根町でのワークショップ参加者は、移住者のファミリーと、お休みの日もパパが仕事でいない家庭のママと子ども、子育てが一段落した世代、ととても少なめ。平日は子連れのママがたくさん参加してくれました。
鳥取(東部)でみなさんの話を聞いてだんだんわかってきたのは、男と女の世界、役割分担のようなものがはっきり分かれているということ(例えば軽作業は女の仕事、力仕事は男の仕事とか。PTAは女の仕事とか)。共働き率の高い鳥取ですが、やはり家事育児はママの仕事、という意識が強く、子どもが熱を出しても仕事を休むのはママ、と決めつけられ、仕方なく休みをとると、翌日会社での周囲の目が気になる、休みすぎだとか、何を言われているかわからず怖い、というママの発言が目立つ。
これまで他地域でもママの孤軍奮闘はよく出てきたテーマではありますが、気持ちはあってもそうできない理由を抱えたパパたちも多く登場してきました。それに対して今回表現されたのは、それはママの仕事、とどこか決めているようなパパたちの姿だったのかな。もちろん少数派ではありますが、家事育児しっかりしてる地元鳥取パパもいるにはいました。
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2について、こんなに途中入園ができない悩みが話題になる地域は初めてでした。鳥取では、4月入園の場合はだいたい問題なく入園できるそうです。なのに育休きっちり1年で復帰しなければならないとこんなにも焦る後ろには、そうでないと会社で白い目で見られる、「前のお母さんはこうだった」と言われてしまうと何も言えない、という思いがありました。病気の子どもの面倒を見るために会社を休んで白い目で見られるのもママたちなら、育休1年あけて途中入園させられず復帰が遅れて会社で白い目で見られるのもママたち。これはママたちのストレスはけっこうなものじゃないかと想像できます。
もう一世代前の鳥取女性たちは、PTAなどの仕事でつながって、そこでできた仲間と女子会で飲みにいってストレスを発散していたという話を去年のワークショップで聞きました。

この産み育てを考えるワークショップ、鳥取でも需要がある気がする、と開催にこぎつけてくださったのは鳥劇制作の佳子さんでしたが、その予感は的中でした。演劇祭のホストで大忙しの中、WSの準備に奔走してくださった鳥劇のれなぞうさん、ちょこちょこ参加してサポートしてくださった同じく鳥劇俳優の大川さんにも本当に感謝です。
最終日の昨日、終わって佳子さんに見えてきた鳥取子育て事情をご報告すると、働かない人を白い目で見る、鳥取東部の、あまり遊ばず真面目な気質の背景には、わたしは鳥取の1918年の地震と1952年の大火の2つの災害の影響があるんじゃないかと思うと佳子さん。これを経験したのが今70代の人たちで、この2つの災害で町は壊滅的な打撃を受け、2度の復興を必死に成し遂げてきて、遊ぶ余裕なんてなかっただろうし、そんな経験から働かない人(専業主婦や育休を長くとる人、子どもの世話で会社をよく休む人)に対して「なんで働かないの?」と白い目でみるような雰囲気ができてきたのでは、という分析だった。
だいたいこのワークショップはやって終わり、になる場合が多いが、見えてきた地域の課題に次の手を打とうと考え始めるのは、鳥劇の中島さんがやはり「地元」とつながって活動する人だからだろう。
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シェイクスピアは、演劇は鏡のように世界を映し出せと言ったけど、人は鏡を見て初めて己の姿を知ることができるんですね。

子育て


その後もあいかわらず病気ばかりでしんどい日々を過ごしている。

でもこの病気の体験はしんどいけれど、いろんなことを学ばせてくれている。
どっぷりと子育てと格闘しながら、今まで読むことのなかった本を読み、行ったことのなかった場所に行き、違う速度の中にぎくしゃくと身をおき、ずっと治療できなかったところを治療し、話したことのなかった人と話し、話すことのなかった話題を話し、立ち止って今までのやり方を見直し、違った角度から物事をみて、本来考えたかったことを考えている、ということを考えると、感謝すべきことだと思う。

だいたいいつも、痛い目にあわないと根本的になにかを改善しようとか痛切に感じなかったり、忙しさにかまけて先送りにしてしまうので、痛い目に遭うと、これは何かを学ぶべき時がきて、今までと違ったやり方や考え方や振る舞いを身につけなければばらないんだなと思う。

今は日本という国にもそんな時が訪れているけれど、そのことについて今は触れられない。
今はできることをしながら、無我夢中で「子育て」をしている。そうするしかない。

このところ、病気ばかりで本当に体はきついけど、嬉しい再会がいくつかあった。
それはこどもを産んで子育てしていなかったらなかったかもしれない再会だった。

産後はずっとずっと本当に孤独な生活だった。もちろんこどもはいつもいるけれど、話はできないし、外にでることもままならない、パソコンを開くことも、メールを書くことも、人と会うことも、電話で話すことも難しい。
今まで一つの場所にじっとしていることのない生活を送ってきたので、これは本当に苦痛だった。
いつもいろんな場所に行き、いろんな人と話した。やりたいことがいつもたくさんあった。
これがほぼすべて不可能になった。
赤ちゃんは眠らずに一日中泣き続けるし、近くには知り合いもいない、遠居の親もあてにならない、夫も忙しく帰りは遅いし土日も振替休日なしに出勤がつづく。
夫ともほとんど話ができないばかりか、夫以外の大人とまともに会ったり話したりもできなかった。
子育て中の母親はこんなにも孤独なんだと初めて知った。
もちろん親や友だちが近くにいたり、近所付合いがさかんなところはそんなこともないんだろうけど。
退職後のサラリーマンの生活ってこんななのかなとも思った。
ともだちはわたしの場合いつも仕事上の仲間だったけど、仕事がなくなってしまえば音信はとだえ、わたしはもう用なしの存在なんだな、とさえ思えた。
NHKのニュースでいつか「ミドルエイジクライシス」という特集があって、わたしと同じような体験や悩みを持つ女性たちが紹介されていたけど、彼女たちの思いは本当に共有できるものだった。
こどもはかわいいでしょうと言われるけど、正直、一才を過ぎるまでそんなふうには思えなかった。

そんな折、高校の時の同窓会があって、本当にひさしぶりに人の集まるところにでかけていった。
まだまだ授乳中だし、こどもはミルクを飲んでくれなかったから、だんなにあずけて出かけることも難しかった。出かけて遅く帰って、それから搾乳しなければならないのも面倒だった。
そこで20年ぶりくらいに当時の友人たちと会ってみると、多くの友人は結婚してこどももいて、子育ての悩みや苦しみに共感をしめしてくれた。
そこで再会した友人も「一才すぎるまでかわいいなんて思えなかったよ」と言ったけど、その言葉はどんなに安心させてくれたことか。
「昔のともだちって前置きなしに、直接話したいことを話せるからすごいよね」と言う友人もいたけど、ほんとにそう思う。
社会に出てからはそういう「ともだち」を作ることはとても難しい。
でもそれは悲観すべきことばかりでもないとは思うけど。

それから、去年の苦しい一年の間に、わたしに仕事をさせてくれた(この仕事にどんなに救われたか)、足立区の公共ホールが主催し、芸大の熊倉すみこさんのプロジェクトでもあった「SPC(スチューデント プロデュース コンサート)」のメンバーで、北九州芸術劇場に学芸員として就職したMさんが、北九州で「子育て」を表現にどう結びつけるかをテーマに勉強会と小学校でのワークショップを企画してくれた。
この夏、こどもをおいて初めて一人で北九州に行った。ひさしぶりの北九州でとても嬉しかった。
わたしは以前から小倉の街が好きで、山口YCAMに行くついでによく小倉にも遊びに寄っていた。
小倉の街の人々も元気で、地元の人は「荒い」というけど、その飾らなさはとてもつきあいやすかった。
北九州では、この企画をMさんとともに担当してくださっているNさんとも再会した。
3人のお子さんを育てたNさんはわたしにとっては先輩ママで、いろいろ教えてもらうことも多かった。
先日、Nさんに紹介された東京青山の「クレヨンハウス」に行ってみたけど、ここは子育て世帯の楽園のような場所だった。地下が自然食レストランとオーガニック野菜のお店、一階は絵本の本屋さん、二階は自然素材でできた世界から集められたおもちゃを扱うおもちゃ売り場、三階は女性のための本屋さんで、夏休みのせいもあって、上から下まで足の踏み場もないほど大盛況で、ほんと、こんな場所が近くにあったら通っちゃうだろうなーと思った。
また夏休みが終わった頃に訪ねてみたいと思う。

病気がピークにしんどかった日には、都内の劇場の学芸のEさんとKさんが訪ねてくれた。
Eさんの「仕事はいつでもできるけど、出産や子育ては時期限定だし、いつでも誰でもできるわけじゃない」という言葉にも、本当に救われた。
誰もそんなふうに言ってくれた人はいなかったからだ。
演劇の世界では、女性の演出家はもともと少ないけど、こどもを持つ人はほとんどいない。
知っているのは故如月小春さんくらいだ。
女性がこどもを持てば仕事のキャリアの中断や断念につながりやすい。
俳優でもこどもを産んで、いい形で復帰したり仕事を続けたりしている女性の俳優は少ないのではないかと思う。
わたしもそこには不安があったし、実際、仕事の世界からはすっかり忘れられたように音沙汰がなくなっていて、しょせんそんなものかと現実を思い知らされたように感じていたから、よけいにEさんのその言葉はありがたかった。
EさんとKさんは、わたしの近況の話を3時間も聞いてくれた。
打ち合わせなのに、こんな話をいつまでもいいの?と聞くと、それが聞きたかった、聞いたことをもとにどんな仕事をお願いするかまた考える、という答えで、これもまた本当に嬉しく、ありがたかった。

今、Eさんたちとはやはり「子育て」をテーマにしたワークショップの企画が進んでいる。
これには、子育て中の親子のみならず、こどもを持つ人持たない人、どんな人でも「子育て」に関心のある人に参加してもらいたいと思っている。

よく自治体が主催する児童ホームなんかの母子対象のイベントがあるけど、これではだめだとわたしは思うのだ。一度参加して以来行っていない。
もっといろんな年齢や立場の人と「子育て」を共有していけるような仕組みが必要だと、痛切に感じている。
その第一歩として、そんな時間と場所を作れたらうれしいと思う。

そして実際の出産育児体験や、北九州やEさんたちの劇場からのお誘いで気づいたのは、演劇というジャンルは、出産や育児のテーマをほぼ切り捨ててきたということだった。
人生や社会にとって必要不可欠でとっても大切なテーマで、多くの人がこの体験でいろんな思いをかかえているにもかかわらず、その声は演劇の世界ではほとんど表現されてこなかったし、自分にとっても盲点だったと思う。
そこにいつか形を与えていける日を待ちたい。

健人の足



































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